ある日突然、警察から「ご家族を逮捕しました」という電話がかかってくる──。何が起きているのか分からず、本人と連絡も取れず、誰に何を聞けばいいのかも分からない。刑事事件は初動が結果を大きく左右します。この記事では、名古屋で刑事弁護を扱う弁護士が、逮捕直後の手続の流れ、ご家族が最初にすべきこと・してはいけないこと、弁護士に早期依頼する意味、勤務先への対応、その後の見通しまでを詳しく解説します。
逮捕から起訴までの流れ──「72時間」と「最長23日間」
逮捕されると、警察は48時間以内に事件と身柄を検察官に送致し(送検)、検察官はそこから24時間以内に、裁判官に対して「勾留」を請求するかどうかを決めます(刑事訴訟法203条・205条)。つまり、逮捕から最大72時間のあいだに、その後も身体拘束を続けるかどうかの最初の判断がなされます。
裁判官が勾留を認めると、原則10日間、やむを得ない事由があるとして延長されるとさらに最大10日間、合計で最長20日間の勾留が続きます(同法208条)。逮捕の72時間と合わせて、起訴・不起訴が決まるまで最長23日間、身柄を拘束される可能性があります。
| 段階 | 期間 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 逮捕(警察) | 48時間以内 | 取調べ、検察官への送致 |
| 検察官の判断 | 24時間以内 | 勾留請求するか、釈放するか |
| 勾留 | 10日+最長10日 | 取調べの継続、起訴・不起訴の判断 |
| 起訴後 | 判決まで | 保釈請求が可能になる。公判の準備 |
この23日間のうち、特に最初の72時間と、勾留決定後の最初の数日間が、その後の展開を左右する重要な時期です。
「逮捕」と「勾留」の違い、在宅事件との違い
「逮捕」は、逮捕状に基づき(または現行犯として)身柄を拘束する最初の手続で、最大72時間です。「勾留」は、裁判官の判断で引き続き身柄を拘束する手続で、①住居不定、②証拠隠滅のおそれ、③逃亡のおそれ、のいずれかがあり、かつ勾留の必要性がある場合に認められます(刑事訴訟法60条)。
逮捕されたからといって必ず勾留されるわけではありません。検察官が勾留請求をしなかったり、裁判官が勾留請求を却下したりすれば、逮捕から72時間以内に釈放されます。釈放後も捜査は続き、「在宅事件」として取調べに呼び出されることになりますが、日常生活を送りながら対応できるため、本人・ご家族への影響は大きく異なります。
また、逮捕されずに最初から在宅で捜査が進む事件も多くあります。警察から「任意で話を聞きたい」と連絡があった段階でも、弁護士に相談しておくことで、逮捕を回避できる可能性が高まります。
逮捕直後にご家族が「できること」「できないこと」
できないこと:面会(逮捕中)
逮捕されてから勾留が決まるまでの最大72時間は、ご家族であっても原則として本人と面会することができません。警察に電話しても、罪名や留置場所以外の詳しい事情は教えてもらえないのが通常です。
勾留が決まった後は、原則として家族も面会(一般面会)できるようになりますが、平日の日中に限られ、1日1組・15〜20分程度、警察官の立会いのもとで行われます。さらに、共犯者がいる事件や証拠隠滅のおそれがあるとされる事件では、裁判官が「接見禁止」を付けることがあり、その場合は家族との面会や手紙のやりとりも制限されます。
できること:弁護士に接見を依頼する
弁護士だけは、逮捕直後の段階から、時間や回数の制限なく、立会人なしで本人と面会(接見)することができます(刑事訴訟法39条1項)。接見禁止がついていても、弁護士の接見は制限されません。ご家族が本人の状況を知り、本人に必要な助言を届け、ご家族の言葉を伝える唯一の方法が、弁護士による接見です。
できること:差入れ
留置場所が分かれば、衣類・下着・現金(留置施設内で日用品の購入に使えます)・書籍などを差し入れることができます。ただし、施設ごとにルールがあり、紐のついた衣類やフード付きの服は不可など制限があります。接見禁止がついている場合は、手紙の差入れはできませんが、衣類や現金は可能なことが多いです。詳細は弁護士を通じて確認するのが確実です。
早期に弁護士へ依頼する3つの意味
1. 本人に取調べの注意点を伝えられる
逮捕直後の取調べで作成される供述調書は、その後の処分や裁判に大きな影響を与えます。一度署名押印した調書の内容を後から覆すことは非常に困難です。黙秘権の意味、署名押印を求められたときの対応、内容が違うと感じたときに訂正を求める権利、不本意な調書に応じない権利など、本人が知っておくべきことを最初の段階で伝えることが重要です。事実を認めるべき事件と、争うべき事件とでは取るべき対応が異なり、その見極めには弁護士の助言が不可欠です。
2. 勾留を防ぐ・早期の釈放を目指す
弁護士は、検察官に対して勾留請求をしないよう意見書を提出して働きかけたり、裁判官に対して勾留の要件を満たさないことを示す意見書を提出したりすることができます。勾留が決まった後も、準抗告(勾留決定に対する不服申立て)や勾留取消請求で争うことが可能です。勾留を避けられれば、勤務先や学校への影響を最小限に抑えられます。
3. 被害者との示談を進め、不起訴を目指す
被害者のいる事件では、早期に示談が成立するかどうかが、不起訴(前科がつかない)となるかの大きな分かれ目になります。逮捕中の本人やご家族が被害者に直接連絡することは通常できませんし、避けるべきです。弁護士が窓口となって、検察官を通じて被害者に連絡を取り、謝罪と示談交渉を進めます。
勾留を避ける・早期釈放を目指す具体的な弁護活動
勾留の要件は「証拠隠滅のおそれ」「逃亡のおそれ」です。弁護士は、これらのおそれがないことを裁判官に具体的に示します。ご家族の協力が重要になる場面です。
- 身元引受書:ご家族が本人の監督を約束する書面を作成し、逃亡のおそれがないことを示します。
- 生活状況の説明:定職があること、家族と同居していること、住居が安定していることなどを資料とともに示します。
- 被害者との接触禁止の誓約:証拠隠滅のおそれを否定するため、被害者や関係者に接触しないことを誓約します。
- 示談の進行状況:示談交渉が進んでいることは、勾留の必要性を否定する事情になります。
こうした活動により、逮捕から72時間以内に釈放される、あるいは勾留延長を阻止して10日で釈放される、といった結果につながることがあります。
被害者との示談──不起訴の鍵
暴行・傷害・痴漢・盗撮・窃盗・器物損壊など被害者のいる事件では、被害者との示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思(宥恕)を示せば、検察官が不起訴処分とする可能性が大きく高まります。不起訴になれば前科はつきません。
示談交渉は、検察官から被害者の連絡先を教えてもらうところから始まります。被害者は加害者本人や家族からの連絡を拒否することがほとんどですが、弁護士が窓口になることで応じてもらえるケースが多くあります。示談金の相場は事件の内容・被害の程度によって大きく異なり、数万円から数百万円までさまざまです。示談書には、示談金の支払い、宥恕(許す意思)、被害届の取下げ、接触禁止などの条項を盛り込みます。
示談を進めるには、示談金を準備しておく必要があります。ご家族には、可能な範囲で示談金の準備をお願いすることになります。
国選弁護人・当番弁護士・私選弁護人の違い
| 制度 | 利用できる時期 | 費用 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 当番弁護士 | 逮捕直後から | 初回1回のみ無料 | 弁護士会が派遣。1回の接見で助言を受けられるが、継続的な弁護活動はしない |
| 国選弁護人 | 勾留決定後(一定の資力要件あり) | 原則無料 | 裁判所が選任。逮捕から勾留までの72時間には間に合わない。弁護士を選べない |
| 私選弁護人 | 逮捕直後(逮捕前も可)から | 有料 | 自分で選べる。逮捕直後から釈放・示談・不起訴に向けた活動を継続的に行える |
国選弁護人が選任されるのは原則として勾留決定後であり、逮捕から勾留までの重要な72時間には間に合いません。当番弁護士制度により1回の無料接見を受けることはできますが、その後の継続的な活動は行われません。逮捕直後から継続して動いてもらうには、私選弁護人への依頼が必要です。私選弁護人を依頼した後に国選弁護人に切り替えることはできませんので、費用面も含めて最初にご相談ください。
勤務先・学校への対応と、報道への備え
勤務先への対応
逮捕されると、本人は無断欠勤の状態になります。勤務先にどう説明するかは、事件の内容、勾留の見込み、会社の就業規則などを踏まえて慎重に判断する必要があります。「体調不良で休む」と伝えて数日間様子を見るケース、家族から事情を説明するケースなど対応はさまざまです。逮捕されたこと自体を理由に直ちに解雇することは法的に問題がある場合も多く、弁護士から勤務先に連絡し、法的な観点から説明することもあります。
学校への対応
学生の場合、学校への連絡の要否や説明の仕方も検討が必要です。少年事件の場合は、学校との連携が処分に影響することもあります。
報道への備え
逮捕された事件のすべてが報道されるわけではありませんが、実名報道された場合の影響は大きなものになります。弁護士は、捜査機関に対して実名発表を控えるよう申し入れを行うことがあります。報道された場合のインターネット上の記事への対応についてもご相談ください。
ご家族が準備しておくとよいもの
- 警察からの連絡内容のメモ(どこの警察署か、罪名、担当者名、連絡があった日時)
- 本人の勤務先・学校への対応方針(連絡すべきか、どう説明するか)
- 本人に差し入れる衣類・現金(弁護士を通じて留置場所とルールを確認します)
- 本人の生活状況が分かる資料(住民票、在職証明、家族構成など。身元引受書の作成に使います)
- 示談金の準備(被害者のいる事件の場合)
- 事件に関係する可能性のある書類・データ(消去したり隠したりせず、そのまま保管してください)
ご家族がやってはいけないこと
- 被害者に直接連絡する:被害者の恐怖心や不信感を強め、示談が困難になります。また、証拠隠滅や脅迫と受け取られるおそれがあります。
- 証拠を隠す・消す:本人に不利な証拠であっても、隠したり消したりすると証拠隠滅罪(刑法104条)に問われる可能性があり、本人の勾留を長引かせる原因にもなります。
- 共犯者や関係者と口裏を合わせる:同様に証拠隠滅と評価されます。
- SNSに事件のことを書く:本人や被害者の特定につながり、取り返しがつかなくなります。
- 警察の取調べに家族が同席しようとする:制度上できませんし、家族が事情を聞かれて不利な供述をしてしまうこともあります。
起訴された場合・釈放された場合、その後の流れ
不起訴処分となった場合
釈放され、前科はつきません。事件はここで終了します。
略式起訴となった場合
比較的軽い事件(罰金刑相当)では、正式な裁判を開かずに書面審理で罰金を科す「略式命令」となることがあります。罰金を納付すれば釈放されますが、前科はつきます。
正式起訴(公判請求)された場合
起訴後は、保釈を請求することができます。保釈は、保釈金を納めることを条件に、裁判が終わるまで身柄を解放する制度です。保釈金の額は事件によりますが、150万円〜300万円程度が多く、判決後に返還されます。弁護士は、保釈請求書を提出し、裁判官との面談で保釈の必要性を説明します。公判では、事実を認める事件であれば執行猶予付き判決を、争う事件であれば無罪を目指して弁護活動を行います。
刑事事件は「早ければ早いほど」選択肢が広がります。逮捕の連絡を受けたら、できるだけ当日中に弁護士へ連絡してください。72時間以内に動けるかどうかで、勾留の有無・示談の成否・不起訴の可能性が大きく変わります。
まとめ
逮捕された本人は外部と連絡が取れず、ご家族は本人と会えない──この状況を打開できるのは弁護士だけです。逮捕から72時間、勾留から最長20日間という限られた時間の中で、取調べへの助言、釈放に向けた活動、被害者との示談を同時並行で進めることが、不起訴や早期釈放につながります。
越水法律事務所 名古屋オフィスでは、逮捕・勾留中のご家族に関するご相談について、受付時間外でも可能な限り速やかに対応します。名古屋市内・愛知県内の警察署への接見にも迅速に対応可能です。まずはお電話ください。刑事事件・少年事件のページもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
家族が逮捕されました。すぐに面会できますか?
逮捕されたら必ず勾留されるのですか?
国選弁護人ではなく私選弁護人を頼む必要はありますか?
示談をすれば必ず不起訴になりますか?
家族が被害者に直接謝罪に行ってもよいですか?
逮捕されたことは会社に知られますか?
逮捕されると前科がつきますか?
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的なご事情については弁護士にご相談ください。