警察の取調べを受けている、家族が逮捕された、被害届を出されたらしい──そのような状況で、多くの方が最初に知りたいのは「結局、裁判になるのか、前科がつくのか」ということではないでしょうか。その分かれ目が、検察官による「起訴」か「不起訴」かの判断です。この記事では、名古屋で刑事弁護を扱う弁護士が、不起訴処分の意味、嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予という3つの区分の違い、前科との関係、処分が決まるまでの流れ、そして不起訴を獲得するために弁護士が行う活動と、不起訴後に注意すべき点までを順を追って解説します。
不起訴処分とは何か──起訴との違い
刑事事件は、警察が捜査した後、原則として事件が検察官に送られ(送致)、最終的に検察官が「起訴するか、しないか」を決めます。不起訴処分とは、検察官が「この事件について裁判所に裁判を求めない(公訴を提起しない)」と決定することです。
日本では、起訴する権限は原則として検察官だけが持っています(起訴独占主義)。そして検察官は、証拠がそろっていても、事情によっては起訴しないという裁量を認められています(起訴便宜主義。刑事訴訟法248条)。この仕組みがあるために、同じような事件でも、示談の有無や本人の反省の状況によって結論が変わり得るのです。
起訴されると、正式裁判(公判請求)または書面審理で罰金を科す略式手続(略式命令請求)に進みます。日本の刑事裁判は起訴された事件の有罪率が極めて高いため、実務上は「起訴されるかどうか」が事実上の勝負どころになります。令和6年版犯罪白書によれば、令和5年に検察庁が終局処理した人員全体に占める起訴率は32.0%で、多くの事件が不起訴その他で終わっています。
| 処分 | 内容 | その後 |
|---|---|---|
| 公判請求(起訴) | 公開の法廷で裁判を求める | 有罪なら拘禁刑・罰金等。前科がつく |
| 略式命令請求(起訴) | 書面審理で100万円以下の罰金・科料を求める | 罰金でも前科がつく |
| 不起訴処分 | 裁判を求めない | 手続終了。前科はつかない |
不起訴の3つの区分:嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予
不起訴の理由は、法務省の内部規程(事件事務規程)で細かく区分されていますが、実務で圧倒的に多いのは次の3つです。検察庁の公式の説明に沿って整理します。
嫌疑なし
被疑者が人違いであることが明らかになったときなど、犯罪の嫌疑がない場合です。捜査の結果、被疑者が犯人ではない、あるいはそもそも犯罪が成立しないことがはっきりした場合に選択されます。
嫌疑不十分
捜査を尽くしても、犯罪の成立を認定するだけの証拠が不十分な場合です。「やっていない」と争っている事件で、客観的な証拠が乏しく、被害者の供述だけでは有罪立証が難しいと検察官が判断したときに多く見られます。
起訴猶予
被疑者が罪を犯したことは証拠上明白であっても、被疑者の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重と情状、犯罪後の情況などを考慮して、検察官が「今回は起訴を見送る」と判断する場合です(刑事訴訟法248条)。初犯で被害が比較的軽く、被害者と示談が成立し、本人が深く反省しているようなケースで選択されることが多く、不起訴の中でもっとも件数が多い区分です。
| 区分 | 検察官の判断 | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| 嫌疑なし | 犯罪の嫌疑がない | 人違い・犯罪不成立が判明 |
| 嫌疑不十分 | 有罪を立証する証拠が足りない | 否認事件で客観証拠が乏しい |
| 起訴猶予 | 犯罪は認められるが訴追を必要としない | 初犯・軽微・示談成立・反省 |
このほか、親告罪で告訴が取り消された場合(告訴の欠如)、公訴時効が完成している場合、被疑者が死亡した場合、心神喪失が認められる場合なども不起訴になります。被害者との示談で告訴を取り下げてもらうことが決定的な意味を持つ親告罪(たとえば器物損壊罪や名誉毀損罪)では、この「告訴の欠如」による不起訴を目指すこともあります。
結論が「不起訴」であることは同じでも、理由は異なります。事実を争う事件では嫌疑なし・嫌疑不十分を、事実を認める事件では起訴猶予を目標に据えて、弁護方針を組み立てます。
不起訴になると前科はつかない──前歴との違い
「前科」とは、一般に、起訴されて有罪判決が確定した経歴をいいます。罰金刑も有罪判決ですから、略式命令で罰金を納めた場合も前科になります。これに対して、不起訴処分では有罪判決が存在しないため、前科はつきません。起訴猶予であっても同じです。
一方で、警察や検察の捜査の対象となった事実は、捜査機関の内部に「前歴」として記録されます。前歴は戸籍や住民票に載るものではなく、一般の企業や第三者が照会できるものでもありません。ただし、将来また事件を起こした場合には、前歴があることが処分の判断で不利に働くことがあります。
逮捕されたことで会社に知られた、報道されたといった事情がある場合は、不起訴処分になった事実を勤務先等に説明する必要が生じることもあります。その際に役立つのが、後述する「不起訴処分告知書」です。
処分が決まるまでの流れと、不起訴の確認方法
身柄事件の場合
逮捕・勾留されている事件(身柄事件)では、検察官は勾留期間(原則10日、延長されても最長20日)が満了するまでに、起訴するか不起訴にするかを決めなければなりません。つまり、逮捕から長くても23日以内に処分が決まるため、示談などの弁護活動には時間の余裕がありません。逮捕直後の対応については、家族が逮捕されたら最初にすべきことの記事もあわせてご覧ください。
在宅事件の場合
逮捕されずに捜査が進む事件(在宅事件)では、処分までの期限はありません。警察から検察庁に書類が送られた後、検察官の呼び出しと取調べを経て処分が決まるまで、数か月から、場合によっては1年近くかかることもあります。時間がある分、示談交渉や再犯防止の取組みを丁寧に進めることができます。
不起訴処分の確認方法
検察官は、不起訴処分をした場合に被疑者から請求があれば、速やかにその旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟法259条)。実務では、弁護士が担当検察官に処分の見込みと時期を確認し、処分後に「不起訴処分告知書」の交付を請求します。告知書には事件名とともに不起訴の理由(起訴猶予・嫌疑不十分など)が記載されるため、本人や勤務先への説明資料として重要です。
また、告訴・告発があった事件では、検察官は処分の結果を告訴人・告発人に通知しなければならず(同法260条)、請求があれば理由も告げなければなりません(同法261条)。被害者には、別途「被害者等通知制度」により、処分結果や不起訴理由の概要が通知される仕組みがあります。つまり、被害者側は不起訴の事実とその理由をほぼ確実に知ることになります。
名古屋での実務
名古屋市内や愛知県内の警察署が扱った事件は、原則として名古屋地方検察庁(支部事件を除く)や名古屋区検察庁に送致され、担当検察官が処分を決めます。当事務所の名古屋オフィスは栄・伏見エリアにあり、検察庁での検察官面談や、県内各警察署への接見に迅速に対応できる体制をとっています。
不起訴を獲得するための弁護活動
不起訴は「待っていれば得られる結果」ではありません。検察官が248条の各要素をどう評価するかは、弁護士がどのような資料と事情を提示できるかに大きく左右されます。事件のタイプ別に、主な弁護活動を整理します。
事実を認めている事件(起訴猶予を目指す)
- 被害者との示談・被害弁償:もっとも重要な要素です。弁護士が被害者に連絡を取り、謝罪と被害弁償を行い、できる限り「処罰を望まない」という宥恕の意思を示談書に記載してもらいます。被害者の連絡先は通常、弁護士を通じてのみ検察官から開示されます。
- 反省と再犯防止策の具体化:反省文の作成にとどまらず、依存症の治療やカウンセリングへの通院、飲酒・ギャンブルからの離脱、家族による監督体制の構築など、再び同じことをしない仕組みを目に見える形にします。
- 身元引受人・監督誓約書:家族や勤務先の上司が監督を誓約する書面を用意し、社会内での更生が期待できることを示します。
- 検察官への意見書提出・面談:示談書、反省文、治療の証明、家族の上申書などを添えて、起訴を猶予すべき事情を書面にまとめ、処分前に検察官へ提出し、必要に応じて面談で直接説明します。
事実を争っている事件(嫌疑なし・嫌疑不十分を目指す)
- 取調べへの対応方針の決定:供述調書は一度作成されると後から覆すことが難しいため、黙秘権の行使や署名押印の拒否を含め、取調べでどう対応するかを弁護士と事前に打ち合わせます。
- 客観証拠の収集・保全:防犯カメラ映像、位置情報、通信履歴、目撃者の供述など、本人に有利な証拠は時間とともに失われます。早期に保全を申し入れ、独自に収集します。
- 検察官への意見書:証拠の矛盾点や、被害者供述の信用性に疑問がある点を具体的に指摘し、起訴すべきでないことを論理的に主張します。
共通して重要なこと:早期の依頼
身柄事件では処分まで最長でも23日、しかも示談は被害者側の都合にも左右されます。在宅事件でも、検察官が処分を決める直前になってから活動を始めたのでは間に合いません。国選弁護人は原則として勾留決定後にしか選任されず、在宅事件には付きませんので、不起訴を目指すなら、できる限り早い段階で私選弁護人に依頼することが結果を大きく左右します。
起訴猶予の判断要素は「犯罪後の情況」を含みます。事件後にどう行動したか──示談、被害弁償、治療、監督体制──は、弁護士と一緒に今から積み上げることができる要素です。
不起訴になった後の注意点──検察審査会・再捜査
不起訴処分には確定力がない
裁判で無罪判決が確定すれば、同じ事件で再び裁判にかけられることはありません(一事不再理)。しかし、不起訴処分にはこのような効力はありません。新たな証拠が見つかった場合などには、公訴時効が完成するまでは、検察官が捜査を再開して起訴することが法律上は可能です。公訴時効の期間は罪の重さによって異なり、たとえば長期5年未満の拘禁刑または罰金に当たる罪では3年、長期10年未満の拘禁刑に当たる罪では5年です(刑事訴訟法250条)。実際に事情の変化なく再起訴される例は多くありませんが、「不起訴=完全に終わり」ではないことは知っておくべきです。
検察審査会による審査
被害者や告訴人が不起訴処分に納得できない場合、その検察官の属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会に審査を申し立てることができます。検察審査会は、選挙権を持つ国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員で構成され、申立てに費用はかかりません。審査の結果は「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のいずれかの議決で示され、起訴相当の議決には8人以上の多数が必要です。起訴相当・不起訴不当の議決があると検察官は再度捜査・検討を行い、それでも不起訴とした場合に再審査で「起訴議決」がされると、裁判所が指定した弁護士が検察官の代わりに起訴します。
加害者側から見れば、示談の中で被害者に納得してもらうことは、検察官の判断だけでなく、不起訴後の検察審査会申立てのリスクを下げる意味でも重要です。被害者側から見れば、不起訴に不服があるときの正式な手段がこの制度です。
不起訴記録の閲覧
不起訴になった事件の記録は原則として閲覧できませんが、被害者等が損害賠償請求などの権利行使のために必要と認められる場合には、捜査や関係者のプライバシーに支障のない範囲で実況見分調書等を閲覧できる運用があります。交通事故や傷害事件で、刑事は不起訴でも民事の賠償交渉が続く場合に利用されます。
よくある質問(FAQ)
不起訴処分になれば前科はつきませんか?
起訴猶予と嫌疑不十分では、どちらが本人にとって有利ですか?
不起訴処分になったことは、どうすれば分かりますか?
示談ができれば必ず不起訴になりますか?
不起訴になった後、また捜査されたり起訴されたりすることはありますか?
被害者側ですが、加害者が不起訴になったことに納得できません。何かできますか?
まとめ
- 不起訴処分とは、検察官が裁判を求めないと決めることで、起訴猶予を含め前科はつかない(前歴は残る)。
- 主な区分は「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」。争う事件と認める事件で目指す区分と弁護方針が異なる。
- 身柄事件は逮捕から最長23日以内に処分が決まる。在宅事件は期限がなく数か月かかることもある。
- 不起訴の確認は、弁護士を通じて「不起訴処分告知書」の交付を請求するのが確実。
- 起訴猶予の鍵は示談・被害弁償・再犯防止策・監督体制を検察官に書面で示すこと。嫌疑不十分の鍵は取調べ対応と客観証拠の保全。
- 不起訴後も検察審査会の審査や再捜査の可能性はゼロではなく、被害者の納得を得ることが長期的な安心につながる。
越水法律事務所 名古屋オフィスでは、逮捕・勾留中の事件から在宅事件、被害者側のご相談まで、刑事事件全般に対応しています。処分が決まる前の限られた時間を最大限に使うため、警察から連絡があった段階でお早めにお電話または相談予約フォームからご連絡ください。刑事事件・少年事件の取扱分野ページ、ご相談の流れもあわせてご覧ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的なご事情については弁護士にご相談ください。