「父が亡くなった後、消費者金融から相続人宛ての督促状が届いた」「親の家を片付けていたら、借用書やカードローンの明細が出てきた」。相続では預貯金や不動産だけでなく、借金も相続人に引き継がれます。名古屋オフィスにも、親の借金についてのご相談が多く寄せられます。この記事では、親の借金がどのように相続されるのか、借金の調べ方、相続放棄と限定承認の選び方、債権者からの督促への対応、そして3か月の期限を過ぎてしまった場合の対処までを、名古屋の弁護士が解説します。
親の借金は相続されるのか──法律上の扱い
相続人は、相続開始の時から、被相続人(亡くなった方)の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。この「義務」には、消費者金融やカードローンの借金、住宅ローンの残債、連帯保証人としての保証債務、未払いの医療費や家賃、滞納している税金や国民健康保険料まで含まれます。
借金は法定相続分で自動的に分かれる
相続人が複数いる場合、各相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。金銭債務のような分けられる債務は、遺産分割協議を待たずに、相続開始と同時に法定相続分に応じて各相続人に分割して引き継がれると解されています(最高裁昭和34年6月19日判決)。たとえば借金600万円を配偶者と子2人が相続する場合、配偶者が300万円、子がそれぞれ150万円の債務を負うことになります(民法900条1号・4号)。
「長男がすべて引き継ぐ」と決めても債権者には通用しない
相続人同士の遺産分割協議で「借金は長男が全部引き継ぐ」と取り決めても、その合意は相続人の間でしか効力がありません。債権者は、その取り決めを承認しない限り、各相続人に対して法定相続分に応じた請求ができます(民法902条の2参照)。借金を引き継がないためには、次に説明する家庭裁判所での手続が必要です。
親の借金を調べる方法──3か月以内に全体像をつかむ
相続放棄や限定承認を選ぶかどうかは、プラスの財産とマイナスの財産の全体像が分からなければ判断できません。相続人は、承認または放棄をする前に相続財産を調査することが法律上認められており(民法915条2項)、調査をしただけで単純承認とみなされることはありません。
調査の具体的な方法
- 自宅の書類:督促状・請求書、契約書、クレジットカード、通帳の引落し履歴や振込の記録、スマートフォンの取引メールを確認します。
- 信用情報機関への開示請求:貸金業者系・クレジット系・銀行系の3つの信用情報機関に、相続人として開示請求ができます。ただし個人間の借金や保証債務は登録されません。
- 不動産の登記事項証明書:法務局で取得し、抵当権・根抵当権が設定されていないかを確認します。
- 役所・年金事務所:市区町村に市県民税・固定資産税・国民健康保険料の滞納の有無を、年金事務所に年金保険料の状況を確認します。
- 保証債務:親が事業や知人の借入の連帯保証人になっていないか、親の知人や取引先、親が経営していた会社の借入契約を確認します。
3か月で調べ終わらないときは期間の伸長
相続放棄・限定承認の期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。調査が間に合わない場合は、この3か月以内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てます。費用は相続人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。迷っている間に期限が来てしまうのが最も危険ですので、調査に時間がかかりそうだと分かった時点で伸長の申立てを検討してください。
相続放棄・限定承認・単純承認──3つの選択肢と選び方
相続が開始すると、相続人は3か月以内に次の3つのいずれかを選びます。
| 選択肢 | 借金の負担 | 手続 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | 財産も借金もすべて引き継ぐ(民法920条) | 不要。3か月経過や財産の処分で自動的に単純承認となる(民法921条) | 財産が借金を明らかに上回る |
| 限定承認 | 相続財産の範囲内でのみ返済する(民法922条) | 3か月以内に相続人全員が共同で家庭裁判所に申述(民法923条・924条) | 財産と借金のどちらが多いか分からない。自宅や家業など残したい財産がある |
| 相続放棄 | 財産も借金も一切引き継がない(民法939条) | 3か月以内に各相続人が単独で家庭裁判所に申述(民法938条) | 借金が財産を明らかに上回る。相続に関わりたくない |
選び方の目安
- 借金が明らかに多い:相続放棄が基本です。ただし子ども全員が放棄すると相続権は親の両親、さらに兄弟姉妹へ移ります(民法889条)。次順位の親族にも事情を伝え、必要なら一緒に手続を進めます。
- どちらが多いか分からない:まず期間の伸長を申し立てて調査を尽くします。それでも判断がつかないときに限定承認を検討します。
- 残したい財産がある:自宅や事業用資産を手放したくない場合は、限定承認のほか、事案に応じた方法を検討します。
- 財産が明らかに多い:単純承認をしたうえで、相続財産から借金を返済します。
相続人同士で「借金は長男が引き継ぐ」と決めても、債権者には主張できません。借金を引き継がないための選択は、必ず3か月以内に家庭裁判所の手続で行う必要があります。期限の数え方や法定単純承認にあたる行為は、相続放棄の期限は3か月の記事もあわせてご覧ください。
限定承認とは──メリットと実務上のハードル
限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務を弁済することを留保して相続を承認する方法です(民法922条)。借金が財産を上回っていても超過分を自分の財産から支払う必要はなく、財産が残れば相続人のものになります。
限定承認の手続の流れ
- 3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に申述します(民法924条)。相続人が複数いる場合は全員が共同で行います(民法923条)。
- 相続人が複数いる場合、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選任します(民法936条)。
- 限定承認後5日以内(清算人選任後は10日以内)に、2か月以上の期間を定めて債権の申出を求める公告を官報に掲載し、分かっている債権者には個別に催告します(民法927条)。
- 公告期間の満了後、債権額の割合に応じて相続財産から弁済します(民法929条)。財産の売却は原則として競売によりますが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払えば、相続人がその財産を取得して競売を止めることができます(民法932条ただし書)。自宅を残したい場合に使われる仕組みです。
- 弁済後に財産が残れば相続人が取得します。
注意したい税務上の扱い
所得税法上、限定承認による相続は、被相続人がその資産を時価で譲渡したものとみなされます(国税庁タックスアンサーNo.3105)。購入時より値上がりした不動産や株式がある場合、被相続人の準確定申告で譲渡所得税が発生することがあり、相続財産から納付することになります。限定承認を検討する際は、税理士と連携して事前に試算することをおすすめします。
実務上のハードル
限定承認は、相続人全員の足並みをそろえる必要があること、財産目録の作成や官報公告・清算の手間と費用がかかること、手続全体に長期間を要することから、相続放棄に比べると利用される場面は限られます。一方で、自宅や家業を残しつつ借金のリスクを遮断できる点は相続放棄にはないメリットです。
債権者から督促が来たときの対応──やってはいけないこと
相続人宛ての督促状が届いたとき、相続放棄や限定承認を検討しているなら、支払わない・支払う約束をしないことが原則です。理由は2つあります。第一に、親の預金など相続財産から返済すると、相続財産の「処分」として単純承認したものとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。第二に、「少し待ってほしい」「分割で払う」といった返答は債務の「承認」にあたり、消滅時効が更新されてしまいます(民法152条)。
督促を受けたときの手順
| 段階 | 対応 |
|---|---|
| 1. 内容の確認 | 債権者名、契約日、借入額、最終返済日、請求額を記録します。貸金業者の催告書面には契約年月日・貸付金額・利率などの記載義務があります(貸金業法21条2項)。 |
| 2. 回答 | 「相続について検討中で、弁護士に相談する」とだけ伝え、支払の約束はしません。 |
| 3. 家庭裁判所での手続 | 相続放棄または限定承認を申述します。相続放棄が受理されたら、家庭裁判所で相続放棄申述受理証明書(1通につき収入印紙150円)を取得し、写しを債権者に送付します。裁判所のQ&Aでも、受理されたことを債権者に連絡することが勧められています。 |
| 4. 弁護士への依頼 | 弁護士の受任通知で窓口を一本化できます。貸金業者は、弁護士からの通知後は正当な理由なく本人に直接支払を要求できません(貸金業法21条1項9号)。 |
違法な取立てには毅然と対応する
貸金業者による正当な理由のない夜間早朝の電話や訪問、勤務先への連絡、債務者以外の人への支払要求は禁止されています(貸金業法21条1項)。悪質な取立ては記録を残したうえでご相談ください。
なお、債権者が訴訟や支払督促を申し立ててきた場合、放置すると判決等が確定し、強制執行を受けるおそれがあります。相続放棄が受理済みであれば受理証明書を提出して争う必要がありますので、裁判所からの書類は必ず開封し、期限内に対応してください。
古い借金は時効の可能性も──消滅時効の援用
何年も前の借金について突然督促が来た場合、消滅時効が完成している可能性があります。債権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないと時効によって消滅します(民法166条1項)。貸金業者や銀行からの借入では、通常は最後の返済日から5年が目安です。
ただし、時効は期間が過ぎれば自動的に借金が消えるものではなく、「時効を援用する」という意思表示をして初めて効果が生じます(民法145条)。実務では内容証明郵便で時効援用通知を送るのが一般的です。相続人が一部でも返済したり支払猶予を申し入れたりすると、債務の承認として時効が更新され、再び時効期間が進行してしまいます(民法152条)。債権者が「まず少額だけでも」と求めてくるのはこのためです。
また、債権者がすでに判決や支払督促を得ている場合、確定した権利の時効期間は10年になります(民法169条)。時効が使えるかどうかは契約日や最終返済日、裁判の有無によって変わりますので、督促状の記載をもとに弁護士が確認し、相続放棄で対応すべき借金と切り分けます。
3か月を過ぎていた・すでに返済してしまった場合
期限経過後でも相続放棄が認められる例外
3か月の熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかった場合、原則として単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。しかし最高裁判所は、相続人が相続財産が全く存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合には、相続財産の全部または一部の存在を認識した時から3か月を起算すべきだと判断しています(最高裁昭和59年4月27日判決)。親と疎遠で、死亡から何年も経って債権者からの通知で初めて借金を知ったようなケースでは、事情を説明する上申書を添えて申述することで受理されることが多くあります。
すでに一部を返済してしまった場合
督促に応じて支払ってしまった場合でも、直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。相続財産から支払ったのか、自分の財産から支払ったのか、金額や経緯によって「処分」にあたるかどうかの評価が分かれます。これ以上の支払いはせず、早急にご相談ください。
相続してしまった借金は債務整理で対処する
相続放棄がどうしても認められず、法定相続分に応じた借金を負うことになった場合でも、解決の道はあります。相続人自身の債務として、任意整理・個人再生・自己破産といった債務整理の手続を利用できます。収入や資産が一定の基準以下の方は、法テラスの弁護士費用立替制度を利用できる場合があります。
名古屋での手続
相続放棄・限定承認・期間の伸長の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。名古屋市内にお住まいだった方であれば名古屋家庭裁判所(名古屋市中区三の丸1-7-1)が管轄です。当事務所では必要書類の収集から申述、債権者対応までを一貫してお手伝いします。相続・遺言・遺産分割のページもご参照ください。
よくある質問(FAQ)
親の借金は子どもが必ず払わなければなりませんか?
限定承認とはどのような制度ですか?
相続放棄をしたのに督促状が届きます。どうすればよいですか?
督促に応じて少しだけ返済してしまいました。相続放棄はもうできませんか?
親の借金がいくらあるか分かりません。どう調べればよいですか?
兄弟のうち一人だけが相続放棄をすることはできますか?
まとめ
- 親の借金は法定相続分に応じて相続人に引き継がれ、相続人同士の取り決めだけでは債権者に対抗できません。
- 借金を引き継がないためには、3か月以内に家庭裁判所で相続放棄または限定承認の手続をとる必要があります。調査が間に合わなければ期間の伸長を申し立てます。
- 督促が来ても、支払いや支払の約束はしないでください。法定単純承認と時効の更新という2つのリスクがあります。
- 古い借金は時効援用、期限経過後は判例上の例外、相続してしまった借金は債務整理と、段階に応じた対処法があります。
親の借金の問題は、最初の3か月の動き方で結果が大きく変わります。督促状が届いた、借金の存在を知ったという段階で、まずはご相談ください。越水法律事務所 名古屋オフィスでは、財産調査から相続放棄・限定承認の申述、債権者への対応、時効援用までを一貫してサポートします。ご相談は相談予約フォームまたは050-8886-6507(平日10:30〜17:00)までお気軽にお問い合わせください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的なご事情については弁護士にご相談ください。